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某平の七転

八倒か八起か考えてみたくない?

【※ネタバレあり】ソード・オラトリア8巻のあらすじと感想を書くよ

✴︎はじめに

今回はダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝ソード・オラトリア8巻のあらすじと感想記事になります

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最新巻までのネタバレを含むのでご注意下さい。最新巻のラストまでガンガン開示して語ります。キャラクターの生死に関する記述も行うので最新巻まで読んでない人はブラウザバック推奨ですネー

 

*目次

✴︎はじめに

✴︎ベート・ローガという男

✴︎ベート・ローガと「雑魚」

✴︎いたぁーっ‼︎ベート・ローガぁ!

✴︎ベート・ローガの過去

✴︎ベート・ローガとレナ・タリー

✴︎ベート・ローガの牙と傷

✴︎やっほー、ベート・ローガー

✴︎ベート・ローガぁー!だぁーい好きぃー‼︎

 

✴︎ベート・ローガという男

ベート・ローガは迷宮都市オラリオの最大派閥、ロキ・ファミリアに属するLV.6の第一級冒険者である。凶狼(ヴァナルガンド)の二つ名を持ち、LV.5時点で既にロキ・ファミリア最速の機動力を有していた最速蹴撃狼人(ウェアウルフ)。

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さて、私は初めてダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(以下ダンまち)に作品に触れた時からベート・ローガと云うキャラクターは割と好きだ。彼の一匹狼然とした考え方やスタンスは格好良く、その傲然とした自信に見合うだけの実力は持ち合わせているわけで、そんな彼の純粋な強さは大好きだったし、時折見られるアイズにかかると弱いんだなーって描写は可愛らしくて好ましかった。しかし彼は如何せん口が悪ければ態度も悪い。仲間が眉を顰めるほどに声高に弱者を罵り軽蔑する。ダンまち本編の1話でミノタウロスに襲われたベルを豊穣の女主人の酒席で散々バカにしていた事を覚えている人も多いだろう。

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彼のそんな露悪的なまでに粗暴な口調にはこちらも眉を顰めたくなる事がある。ただ、彼にも思うところがありながら、口をつくのはどうしても攻撃的な言葉なんじゃないか、と何となく思っていた読者もいるだろう。そう云う雰囲気は実際積み重ねられて来たからだ。ならば彼は何故そこまで弱者を突き放すのか。外伝8巻はついにその部分へと迫った物語である。

 

✴︎ベート・ローガと「雑魚」

ソード・オラトリア7巻の終盤ににおいて「闇派閥(イヴィルス)の残党」の連中に襲撃されたリーネ・アルシェ達。彼女達は通常の治癒が効かない「呪道具(カースウェポン)」による致命傷で今にも事切れようとしていた。リーネはアニメオラトリアにも名前付きで出ていた、おさげメガネの少女である。注意書きはしてあるので此処まで読んでいる原作未読者も居ないと思うけど一応アニメ組の人へ。

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この娘好きになったらアカンで。死ぬから。

さて、リーネを含むロキ・ファミリア二軍以下のメンバーの一部が敵の襲撃で死に、また死にゆく彼女らが嘆きを以って看取られているその瞬間にベートはどうしたか。彼は笑ったのだ。死者を、嘲笑ったのだ。そしてこう言った。

「ざまぁーねぇな。だから言っただろう、雑魚は足手纏いだってな。じゃあな。もう二度と俺の前に現れんじゃねーぞ。二度、巣穴から出てくんな」

とんでもない発言である。団員の死を嘆き悲しむ他の団員から敵意の篭った視線を一身に浴びながら、自分を思慕していたメガネの少女に、彼はそう言った。リーネの方に、その琥珀色の目を向けて。怒りからベートの頬を張ろうとしていたアイズはその目を見ると思わず動きを止めた。そして、ベートに恋い焦がれていた少女はその目を見ると安らかに笑って、満足げに…逝った。

ベートは何故そこまで弱者を嫌うのだろうか。そしてベートは死にゆくリーネにどんな表情を見せたのだろうか。気になるところではあるが、その詳細は物語の中でもこの記事でも一旦棚上げする。

その後、案の定ベートはファミリアの中でも孤立する。当然と言えば当然であるし、どの様な想いが内に潜んでようとも、口にした言葉は軽蔑と罵倒である。これは私も仕方ないと思う。普段から攻撃的な言動で恐れられている部分はあったが今回は決定的であった。ファミリア内の空気をひたすら悪くするベートはヒリュテ姉妹と激突したのを切っ掛けに団長であるフィンに「頭を冷やしてくるように」と暇を出され、挙げ句の果てに酒場で酒を入れて周囲に突っかかり続けるベートは心配してついて来てくれたアイズまで怒らせてしまう。「私は、ベートさんのそういうところが…嫌いです」と。

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半ば無自覚ながらアイズにある種の憧憬と思慕を抱くベートは酔いが一気に吹き飛ばされてがっくし項垂れる。

〇なんだこの可愛い生き物は。「やっちまったぁ…」て!「酒が入るといつもの癖が更に出やすくなりやがる」とか自己分析しないといて。可愛くて悶絶してしまう。

 

✴︎いたぁーっ‼︎ベート・ローガぁ!

酒場の前で悄然とするベートは唐突にその名を呼ばれ顔を上げる。そこにいたのは未成熟な四肢に扇情的な衣装を纏ったアマゾネスの少女だった。外伝6巻の顛末でベートが殴り飛ばした元イシュタル・ファミリアの少女、レナ・タリーと云う名の。

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彼女は「獣化」したベートの本気も本気の鉄拳を腹に食らって、あろう事か下腹辺りをキュンキュンさせ、それからと言うものベートをずっと探していたらしい。腹パンされて運命感じちゃう系電波少女がレナなのだ。相当キケンな自己紹介と告白(アマゾネスに限ればそれが割と通常営業ではあるのだが)を受け、最強◯✖️計画ばりの勢いで抱きつかれそうになったベートは反射的に反撃。相当容赦のない第一級冒険者の拳が、剥き出しで肉付きの薄い褐色の腹に命中する。水袋を叩いた様な音を出してくの字に吹き飛ぶ彼女に流石に慌てるベートだが、当の彼女は「ふっ…ふへっ、ふへへへへへへぇ…!お腹にいいのもらっちゃったよぉ…!これで二回目ぇ…!これ、絶対妊娠しちゃう…!」と口の端から唾液を零しつつ激しくトリップしていた。やべぇぞこのアマゾネス…。それを見たベートは(なんだコイツ腹パンされて悦がって妊娠しちゃうぅ〜なんて言い出すアマゾネスとかどこの朝◯先生の同人誌だよやべぇ)とロキ・ファミリア最速の面目躍如と言わんばかりに後退る。しかし相手は想い込んだら一直線のアマゾネス。しかも娼館経営も行なっていたイシュタル・ファミリアの本職だ。本拠に帰れないベートは言葉巧みに一宿一飯へと導かれ、彼女の隠れ家までご案内されてしまう。子作りしたいレナと絶対に関わり合いになりたくないベートの間でそれなりの攻防がありつつ、ベートはふと思いつく。ロキ・ファミリアはそもそも「闇の勢力の残党」が雌伏する「人造迷宮(クノッソス)」を攻略するために「Dの紋章が刻まれた鍵(ダイダロス・オーブ)」を探していたのだ。レナが所属していたイシュタル・ファミリアの主神イシュタルは闇の勢力の残党と協力関係にあるタナトス・ファミリアと繋がりがあり、鍵を持っている可能性がある。その事をレナに問いかけたベートは情報提供の交換条件としてダンジョンデートを持ちかけられてしまう。

〇それにしても羨ましい。お腹を殴られて不気味な笑い声をあげて喜んでいる様は確かに不気味かも知れないが、絵になれば相当エロスなはずである。私も腹パンされたがりのドМな褐色美少女に絡みつかれたい…。

ダンジョンデートの最中、LV2相当のレナをベートはいつも通り「雑魚」と嘲弄する。「そろそろ身の程を知って俺にはもう近づくな」と。するとレナはなんと「強くなったらベートの隣にいていいんだね?」とLV6到達宣言をぶち上げ始めベートの度肝を抜いた上に、彼女はベートが口にする「雑魚」は彼なりの激励であり優しさだと見抜き、ベートに面と向かってそう伝える。かつて同じ事を伝えてきたメガネでおさげのヒーラーがフラッシュバックしたベートは表情を歪めた。そうしている内にダンジョンデートの情報がヒリュテ姉妹まで上がってブチ切れられたり、あろう事かアイズに目撃され必死の逃走を図ったり、そしてレナから彼女が好きな花の名を聞いて「興味ねぇ」と斜を向いたりしながらその一日は終わっていった。…レナが好きな花はミオソティス。

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和名にすると勿忘草。花言葉は…「私を忘れないで」

〇…なんやねんこの死亡フラグ

 

✴︎ベート・ローガの過去

レナ・タリーとは闊達で爛漫で華奢で未成熟ながら成長途上の美しい肢体を持ち性に奔放で褐色肌で好意を隠そうともしない橙真珠の瞳を持つぶっちゃけベートの野郎羨まし死案件の超可愛い少女であるのだが(個人的見解。前々から、こんな雰囲気の少女は大好きなのだ)

弱者を、「自分より弱い女」を遠ざけたがるベートがレナの直球な思慕を受け入れる事はない。ここでベートの今の人格を形成した事柄が物語の中で語られる。

ベート・ローガは「牙」を持っている。獣人特有の鋭い犬歯とは別に、彼は頬に「牙」を持っている。かつて生まれ故郷を、狼人の一族を、父を、母を、妹を、そして将来を誓った幼馴染を蹂躙し、奪い去った邪竜に刻まれた傷跡に刺青を重ねた「牙」だ。故郷を喪い、迷宮都市オラリオに流れついたベートは獣人が多く所属するヴィーザル・ファミリアに腰を落ち着けた。元々狼人の一族の中で鍛え上げられていたベートはヴィーザル・ファミリアの中で頭角を現し、このファミリアをオラリオ有数のファミリアへと押し上げていった。そんな中、彼は彼に次いで実力のある少女に、喪った幼馴染の隣にも似た安らぎを見出す。愛情を交感させる関係になった彼女は、ベートの全てを奪った邪竜への復讐を思い留まらせようとするが、ベートは止まらなかった。傷だらけになりながら復讐を果たし、オラリオへと帰ったベートが見たものは、変わり果てたその少女の亡骸であった。少女達ファミリアの団員は、ベートがいない間にダンジョンへと潜り半壊した。実力者であった筈の少女は、死んだ。その時からベートはファミリアを抜け、1人で狂ったように戦い始めたのであった。

ベートが弱者を嫌うのは、どれだけ自分が頑張っても、必ず指の隙間から溢れていってしまうからであった。ベートがどんなに強くても、全ての力無き者を守ることなど出来ないからであった。ベートはそんな弱者が大嫌いだ。かつての自分を見ているようで、嫌いで嫌いで大嫌いだ。

「雑魚は」戦場に出てくるんじゃねぇ!身の程を弁えて巣穴に閉じこもってろ!吠えることも、出来ねェくせに!!

雑魚は、どんなに守りたくても勝手に死んでいく。自らの弱さを棚上げにしながら怨嗟と後悔の泣き声を上げて死んでいく。ベートはそれを守り切ることなど出来ない。だったら俺の前に現れるんじゃねぇ、とベートは、弱き者達に向かって、言の葉の刃を振るうのだ。それが、ベートが抱える弱者への思いと暴言の理由なのである。

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ある日、ベートはいつも通り酒場で誰かれ構わずに突っかかっていた。その時既に彼に勝てるような冒険者はそういない。しかしその日はオラリオ屈指のファミリア、ロキ・ファミリアが居合わせていたのだ。ベートはドワーフの大戦士、ガレス・ランドロックにボコボコにされた。

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何度立ち上がって殴りかかっても全く意に介さず床へと沈められる圧倒的な強者に出会った。その後スカウトをされたベートはロキ・ファミリアへと入団する。そして邂逅したのだ。彼の幼馴染と同じ髪を持ち、しかして幼馴染に無かった強さを持っている少女、アイズ・ヴァレンシュタインに。ベートが、守らなくても死ぬことなどない存在。ベートよりも強い稀有な女性。ベートは期待した。コイツなら、俺と並び立てるのではないかと。その期待はいつしか憧憬や思慕といった感情へと昇華され、今ではベートを唐突に揺さぶる正体不明の感情の源泉になっている。

〇将来を誓い合った幼馴染や一時とは言え交際関係にあった少女がいたにも関わらずアイズに関する感情にだけやたらと鈍感なベート。気づくのが怖いだけなのかも知れないが、もともとアイズに対して抱いていた感情の出発点が妹に向けるようなものだったからかも知れない。

それにしてもアイズとベートは関係性としてベートが16の年に復讐を果たした後根無し草になって、ロキ・ファミリアに拾われてから10歳のアイズが入団してくる、と云う時系列を描いているわけで。確実に6歳以上、場合によっては10歳近い年齢差がある事を考えると何かある種のインモラルな匂いを感じるぜ。

 

✴︎ベート・ローガとレナ・タリー

本筋の時系列ではタナトス・ファミリアと闇派閥の残党が暗殺者を雇い、元イシュタル・ファミリア所属のアマゾネス達を殺し始めた。イシュタルが持っていたDの紋章が刻まれた鍵の情報を他へ漏らされないようにするためである。レナも標的にされ、タナトス・ファミリアのヴァレッタ・グレーデ率いる集団にベートと共に襲撃を受ける。際限のない暗殺者の波に晒され、レナを守りながら立ち回るベートは本来の力を発揮できずにいた。相手の得物は掠っただけで呪いを打ち込む呪道具の武器。加えてステイタスの異常を引き起こす異常魔法(アンチ・ステイタス)までがベートを狙い、苦戦するベートを見て後悔を募らせるレナ。自分が弱いから、ベート・ローガの足を引っ張っている。ああ、言われた通りだったなぁ。後悔しかないや、と。だからレナは言う。

「ベート・ローガ…ごめんね。でも、私がいなければ…ベート・ローガは強いもんね?」

ベートは心の中で叫ぶ。待て。ふざけんな。何を血迷ってやがる。動くんじゃねぇ。行くんじゃねぇ。ここにいろ。

(てめぇは、俺の側にいろーー)

雑魚は引っ込んでろ。足手まといは失せろ。かつて彼が口にし続けて来たその罵倒と、正反対の声を胸の内に浮かべ、しかしそれに気づかないベート。レナはかつてのリーネと同じように、目尻から涙を零しながら

「ベート・ローガ、勝ってね?ーー死なないで」

ベートに背を向け走り出す。狼人の喉が叫喚する。

「ーーレナァ‼︎」

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よりにもよって、こんな時に、初めて彼女の名前を呼ぶなんて。

まるでベートが主人公である。しかし主人公が見初めたキャラクターならここで強力な助っ人が現れレナを助けてくれたであろう。そしてベートは決して主人公ではなかった。足止めを繰り返し挑発をやめないヴァレッタを咆哮を以って引き剥がし、レナの元へ駆けつけたベートが見たものは不治の呪詛を捻じ込まれたレナが血の海に沈んでいる光景であった。

ベートは、間に合わなかった。ベートは主人公ではなかった…。

LV6へと上り詰め、貴方の横に並び立つ、その約束を果たせなかったとレナは眦を下げながら謝る。

「あなたの、となり……並びたかった、なぁ…」

息を吐ききった少女はそれ以上、何かを言う事はなかったのだ。

ベートは泣かない。ベートは鳴かない。ベートは啼かない。ベートは哭かない。ベートは駆けつけたアイズとレナのかつての仲間、アイシャ・ベルカに向かって酷薄に笑ってみせる。雑魚が勝手に逃げ出しただけだ。かかずらってられるかよ。自業自得だ、と。酷薄に、笑って、嗤って、嘲笑ってみせたつもりだった。それに激昂しようとしたアイシャはしかしベートの表情を見ると辛そうな顔をして拳をおさめた。ベートはわからない。何故、そんな目で俺を見る。俺は、嗤っているだろう?軽蔑の表情を、ちゃんと浮かべているだろう?だったらその表情はなんなんだ。とベートは疑問する。きっとそれは、今際の際のリーネ・アルシェに見せた表情と同じもので、彼に恋慕した少女が安心して、微笑んで逝く事の出来る表情で。ベートの頬に刻まれた牙は、きっとその身を裂くように歪んで。

〇恐らくベートは何度誰かを見送っても、その痛みを克服する事は全く出来ていないのだ。痛みを悼みにすり替えて、静かに祈る事が、出来ないのだ。ベートは全てを傷として、1人その背中に背負っているのだ。

私としてもお気に入りの可愛いキャラクターが退場してしまって、相当ショックを受けた。直接手を下したのはヴァレッタではないが、まるでベートが乗り移ったかのような荒々しさを以って内心で彼女を痛罵したほどである。

 

✴︎ベート・ローガの牙と傷

ベートは咆哮した。ベートの咆哮は「誓い」なんだそうだ。ベートは常々言っている。「吠える事もできねぇなら戦場に立つんじゃねぇ。立った以上は吠えてみせろ」と。ベートは吠える。ベートは誓う。レナを奪った闇派閥を、暗殺者集団を、タナトス・ファミリアのヴァレッタを狩り尽くす事を。有象無象を蹴散らし、ヴァレッタに誘導されている事を承知で、イシュタル・ファミリアの大規模地下空間に辿り着くベート。策も謀も罠も全て踏み越えて噛み砕くとばかりに無策な突入をした彼は「絡め取られた」。ヴァレッタの結界魔法「シャルドー」。効果は条件行動分の拘束累乗。特定の人間が動けば動くほど見えない糸に絡め取られて行く。拘束され、砲撃を撃ち込まれ続けるベートは詠唱した。ベートは忘れないのだ。強者たるベートだけは忘れられないのだ。弱者の咆哮と涙を傷と背負ったベートは絶対に、それを忘れられてはならないのだ。

「【戒められし、悪狼(フロス)の王ーー】」

ベートは前衛特化の完全な物理攻撃型。死んでも使うまいと心に決めていた魔法を、己の我儘の楔から解き放つ。

「【一傷、拘束(ゲルギア)。二傷、痛叫(ギオル)。三傷、打杭(セビテ)。飢えなる涎(ぜん)が唯一の希望。川を築き、血潮と交ざり、涙を洗え】」

魔法とは、術者本人の深層を反映して発現する。だからベートはこの魔法が嫌いだった。大嫌いだった。

「【癒さぬ傷よ、忘れるな。この怒りと憎悪、汝の惰弱と汝の烈火。世界(すべて)を憎み、摂理(すべて)を認め、涙(すべて)を枯らせ。傷を牙に、慟哭(こえ)を猛哮(たけび)にーー喪いし血肉(ともがら)を力に】」

ベートの深層はベートの弱さを曝け出すのだ。目を背け続けているその痛みに気づかされてしまうのだ。ベートはこの魔法が大嫌いだ。自分の「牙」が「傷」だと云う事実が、突きつけられてしまうから。だからベートはこの魔法が大っ嫌いだ。

「【解き放たれる縛鎖、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身の代わりに月を喰らえ、数多を飲み干せ。その炎牙(きば)をもってーー平らげろ】」

解放する。

「【ハティ】」

閃光と熱波が、世界を灼いた。

ベートの魔法は魔力吸収、そして損傷吸収。自らが傷つけば傷つくほど攻撃力が際限なく上がって行く、自罰的にも程がある魔法である。四肢に焔を宿す、炎狼の顎門の如きその魔法は瞬く間に暗殺者集団を焼き、ヴァレッタを哀れな灰燼へと変える。

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狼が吠える。それは天に捧げる鎮魂の歌のように響いて消えた。

〇ベートのあまりにも自罰的な魔法に言葉を失った。被弾により威力が上がり続けると云う性質は確かに場合によってはロマンが溢れる。しかしベートの背景を知って見るこの魔法はあまりにも悲しい。

それはそうとベートは自らの魔法を嫌っていたが故に魔力にステイタスが一切振られていない筈だ。ダンまち世界の魔法は基本的に二つに大別され、効力が高くない代わりに詠唱が短く取り回しのし易い短文詠唱と圧倒的な効力と引き換えに莫大な詠唱量を必要とする長文詠唱に分類できる。例外はあれど基本的に魔法の威力は詠唱の分量に比例し、ベートの「ハティ」は明らかに後者である。その詠唱の長さゆえに鍛えていないベートの魔力でも最大限の結果が返ってきたのかも知れない。

 

✴︎やっほー、ベート・ローガー

ベート・ローガは消沈していた。それはそれは分かりやすく黄昏ていた。本人に聞いたら絶対に、レナが居なくなったからだ、とは言わないであろう。だが、自らの弱さに後悔の念を抱いているのは確かだ。頬の傷は幻痛を生み、幻の血潮がこぼれ落ち続けている。二日間。二日間本拠へと帰って来なかったベートを見つけたアイズは、彼に尋ねる。

「ベートさんはどうして人を見下すのか、どうして強くなろうとするのか」

教えて欲しい、と。かつて蹂躙された妹を思い起こさせる表情で、かつてダンジョンに飲まれた彼女のような眼差しで、そして幼馴染と同じ金の髪を夕日に輝かせるアイズの前で、ベートは誤魔化すことも嘘を吐くことも出来なくなった。ベートは言う。

「雑魚が嫌いだからだ」

と。それだけですか?と問いすがるアイズにベートは言葉を重ねる。

「雑魚のみっともねぇ姿を目にしたくもねぇからだ」

「雑魚の泣き言を聞くと虫唾が走るからだ」

それでも問いすがるアイズに、ベートは我慢ならないように叫ぶ。

「弱え連中を貶すのは強え奴の役目だ!俺等がしなけりゃあ、誰がするってんだ!でなけりゃあ勘違い野郎どもが益々増えやがる!冗談じゃねえ!弱ぇヤツは戦場に出てくるな!弱ぇ女は巣に引っ込んでろ!身の程を知りやがれ!ことあるごとに泣き喚きやがって、苛つくんだよ‼︎もやもやしやがる‼︎雑魚が目の前で野垂れ死ぬのはもう御免なんだ‼︎」

吠える。

「もう、誰も哭くんじゃねえ‼︎」

ベートが肩で息をついた瞬間、ベートの知覚範囲外ギリギリからロキ・ファミリアの面々が顔を出した。ヒリュテ姉妹が、レフィーヤが、ガレス、リヴェリア、フィンまでが、ぞろぞろと顔を出した。ロキ・ファミリアの全員が、ベートの告白を聞いていたのだ。やいのやいのとからかわれ、あんまりのことにブチ切れるベート。騒がしくも賑やかで暖かいロキ・ファミリアがようやく、帰ってきた。

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そんな中、暗殺者集団に襲われていたアマゾネス達をディアンケヒト・ファミリアの【戦場の聖女(デア・セイント)】アミッド・テアサナーレへの治癒へと渡りをつけていたリヴェリアが、言いにくそうに口を開いた。どうやらレナ・タリーの事らしい。聞きたくもないベートはリヴェリアの話を遮るが、

「いぇーい」

ひょい、と

「やっほー、ベート・ローガー」

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レナ・タリーが顔を出した。硬直したベートにリヴェリアはいつになくバツが悪そうに顛末を話した。曰くアミッドによる対呪詛薬は完成していた事、曰く数が限られていたためかつレナの容体が予断を許さず誰にも話してなかった事、曰く暗殺者集団を欺くためにアマゾネス達は皆死んだことにして匿っていたこと…。相当申し訳ないのかやたらと弁明口調のリヴェリアを放置し、ベートはレナに歩みよる。次の瞬間三度目の腹パンを喰らってぶっ倒れたアマゾネスの少女が恍惚の表情で涎を垂らして宣うは

「ふへっ、ふへへへへっ…!またお腹にいいのもらっちゃったぁ…!これもう妊娠確実だよぉ…!」

心配して歩み寄ったティオナを速攻でドン引きさせる通常運転のレナであった。アマゾネス再びである。

ツンデレベートさんちぃーーーーっす‼ラウルは大概調子に乗りすぎであるが、このツンデレベートさん、レナの事をしこたまにぼこぼこにしているのだ。流石にちょっとやりすぎな気もするが本人が幸せそうなのでまぁ良いのであろう。愛の形も様々である。

 

✴︎ベート・ローガぁー!だぁーい好きぃー‼︎

アマゾネス達が死んだことになっていたため同胞のサミラが急いで用意した暮石は結果として殆ど不要になった。救えなかったアマゾネスもいたが、多くがアミッドの秘薬により呪詛から解放されたのだ。生きている人間の暮石を放置しておくわけにもいかず、撤去作業を行っていたアイシャがレナの墓の前で唐突に笑い出す。何事かと真新しい自分の暮石を覗き込んだレナは固まった。

ミオソティスの花束が、そこに置かれていたのである。

ミオソティスがレナの好きな花であると知っているのはここにいるアイシャともう1人しかいない。アイシャでないとするならば、レナが死んでしまったと信じてそこに花を供えた人間は…。

感極まったレナは、その花束と同じ色をした空へと、歓喜の声を打ち上げるのだ。

「ベート・ローガぁー!だぁーい好きぃー‼︎」

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〇素晴らしきおさげメガネちゃんが死んで相当ショックを受けていたわけだが、その上素晴らしい褐色ドМ子ちゃんまで死んでしまったら僕まで死んでしまいそうだったので本当に良かった。とは言えあとがきを参照するにレナが死を回避したのは北村編集長の猛説得あっての事らしいので少なくとも初期プロットではレナ死亡ENDであったわけだ。鬼、悪魔、藤ノとはまったくこのことである。北村編集長マジGJ。

散々散々ベート・ローガの物語をまとめ続け、そこに感想を張り付けているとなんだが自分が超熱心なベートフォロワーになった気がするが、私はレナちゃんが超好きだったためにこれを書き始めたのだ。その結果レナちゃんがベート大好きだったがために最終的にこんなことになっているわけで、私がベートに腹パンされたいほど愛してるとか、そう云うことではない。めちゃくちゃカッコよくて孤高で悲しいやつで幸せになって欲しいとは思っているけれど。願わくば彼の笑顔をその隣で引き出すのが天真爛漫で褐色ドМなアマゾネスの少女でありますように…。